なにとはなく

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アイアンスカイ/ IRON SKY <WE COME IN PEACE>

★★★★

 第二次世界大戦末期、ベルリン近郊のとある建物から数機の宇宙船が飛び立つ。ナチスが滅亡せずに月の裏側へ逃れ、ハーケンクロイツ型の秘密基地で逆襲の機会を伺っていた!というハチャメチャなコメディ映画。

 2012年に公開されたフィンランド(ドイツオーストリア合作)の映画で、コメディ映画かつ世界政治の風刺映画でもある。(フィンランドが見た世界はこのように見えているのか?と思う)

 

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 話の本筋としては、ナチス残党が地球侵略の為に製造した巨大兵器「神々の黄昏」を動かすにはなぜかiPhoneが必要で、iPhoneを手に入れるため地球にスパイを送り込む。

 

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 地球にスパイとしてやって来た主人公レナーテは初めはナチス党員として宣伝活動にいそしみ、アメリカ政府に取り入ることにも成功するが、やがてナチスの欺瞞に気付き侵略を止めるためナチスと戦うため再び月へ戻る。「神々の黄昏」を破壊し平安を得たレナーテだが、その頃地球では月の資源を巡り第3次世界大戦が勃発、核の応酬で地球は滅亡していく。

という、皮肉の利いたストーリー。

 

 

 そこかしこにいろんなパロディが散りばめられているらしく、総統閣下シリーズや、冒頭の画像右端の女性はアメリカ合衆国大統領で、設定上の名前は共和党サラ・ペイリンらしいが、キャッチコピーはなぜが「Yes,She Can」だったりと細かい所は適当だが、見ていて飽きない。

 

 しかし、一番の見所はナチスに対応するため集まった各国代表たちの、国連安保理っぽい会議での立ち振る舞いだ。

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 ナチスが地球に急襲して来た際のやり取りでは、米大統領が「どこの国?あれを作ったのは!」周囲を見渡す。各国代表は首を傾げたり、目を合わせたりザワザワとする。そこで突然北朝鮮代表がおもむろに立ち上がり、「あれは我が国の偉大なる将軍様が自ら設計し製造したものだ!!」と叫ぶ。すると周囲の代表たちは大爆笑!しまいには米大統領に「お前は座ってろ」と軽くいなされる。

日本の映画でこんなシーンを作ったら問題になるんだろうが、フィンランドも同じような目線で見ているんだと言うことに少し安心した。

 

 他にも、ナチスに対抗するため、実はアメリカは国際条約を無視して作った宇宙戦艦ジョージ・W・ブッシュを発艦させ世界各国から非難されるが、実は非難する国々も隠れてこっそり宇宙戦艦を作っていたり。

 日本も実は戦艦を隠れて作っている国の1つになっていた。今の日本ではそんなことはまず無理なんだろうが、おそらくフィンランドから見れば日本も国際条約より自国の利益を優先する大国の1つに見えているのだろう。

 ちなみに、各国が隠れて戦艦を作っていたことに怒った米大統領が、「ちゃんと条約を守っているのはどこの国よ?!」と詰問するシーン、おそるおそる手を挙げたのはフィンランド代表だけだった。


 こういうのを見ていると明治時代に描かれた風刺画で「列強に侵略される清」を思い出す。演者が異なるだけで、世界政治は100年前から何も変わっていないのかも知れない。

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 映画のラストでは、無事ナチスを倒した世界の艦隊達だが、月に眠る資源ヘリウム3を巡り、そのまま世界戦争が勃発。

意図的な描写なんだろうが日本の戦艦は特攻をかけ、は「戦争に勝ったのはウチなんだから、そこの資源もウチの物だ」とお決まりのセリフ。(しかしこのセリフ回しは最近どっかで聞いたことがあるなと思ったら、お隣の中国だった)

 

 月の基地に戻ったレナーテは、住民達に問われる。「地球はどうだったのか?」と。

レナーテ「こことは違う」

「いつ地球に帰れるのか?」

レナーテ「じきに、、」

「どうやって」

レナーテ「平和裡に」

そしてその地球では次々と核ミサイルが飛び交いながら映画はエンドロールへ突入。

 

 ある意味ベタな風刺映画だが、アメリカ製作でない所が面白かったのかもしれない。

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